名探偵は貰えない
ラスグレイブ探偵譚より 著作『チームレッドへリング』
【本作のアプリ版、電子書籍版などは此方から】
―4―
……けれど、やっぱり来たのは、お店のお客さんじゃなくて。
「おう、また来たぜお嬢ちゃん」
本日二回目の来店、トスカナ警部補さんだ。
「どーもー、警部補さん」
「こんにちわ」
「いらっしゃいませ!」
3人ともちゃんと応対してくれたので、私はラスグレイブさんと電話の続きを。
「あ、今ですね、警部補さんがお店にいらっしゃいましたよ。
……ええ、もちろん、今回の報酬も私経由で。
事務所の分、引かせてもらってからお渡ししますから。
駄目ですよ、無駄遣いは。
では、警部補さんにそちらに向かうようお伝えしておきます。では」
電話の向こうのラスグレイブさんは、何か言いたげではあったけど、私はそのまま受話器を置いた。
そして警部補さんに向き直ってニッコリほほ笑む。
「……色々、手遅れだったようだな」
気まずそうに、警部補さんが頭を掻いている。
「ええ。警部補さん、先日、ラスグレイブさんと食事に行った時に、何か仕事をお願いしていたんですね」
一つため息をつくと、降参、と言った具合に警部補さんは話し始めた。
「ああ。先日起きた殺人事件で、被害者が死ぬ間際に固く握りしめた手の中に、自分を刺した、装飾付きの折りたたみナイフを隠していたんだ。担当の捜査官が、被害者の人間関係ばかりに目を向けて捜査してたんでな、奴にナイフの出所を洗ってもらっていたんだ」
「ラスグレイブさんによれば、そのナイフは、とある貴族の依頼を受けたプロの盗撮犯が、スタノップ付きで作らせたものだったらしいですよ。で、犯人は、その貴族の可能性が高いそうです」
「なるほどな。さっそく、署に戻って、奴から正式に報告を受けるとしよう」
今すぐにでも署に帰ろう、という様子の警部補さんを制して。
「ところで、警部補さん。誤魔化さないでくださいね。仕事が私に内緒、という事は、報酬はぜーんぶ、ラスグレイブさんの懐に入る予定だったんですよね」
「うっ、え、まあ、そうだ」
私はそんな警部補さんに微笑んで。
「では、まずは正式な警察からの捜査協力という事で、上の事務所で書類の手続きを。それに、報酬も全額、一旦私がお預かりすることになりましたので、後日、よろしくお願いします」
「へぇー」という、姉さんたちの感心の溜息を背に、手続きの為に上の事務所に向かう私と警部補さん。
「……イーサンの奴、これから先も苦労しそうだな」
聞こえてますよ、警部補さん。
でも、多分、私がいないと、ラスグレイブさんはもっと苦労すると思うんですけど。
了
本作の他、未発表タイトルを含む3作を纏めた公式同人誌『彼と彼女の探偵譚』を、夏コミC92にて発表予定です。